大判例

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仙台高等裁判所 昭和29年(う)472号 判決

記録によると原審裁判所は昭和二十八年八月二十日裁判官有路不二男により同年七月二十五日附起訴状記載の公訴事実(原判示第二(一)の事実)につき第一回公判開廷後、裁判官斎藤勝雄がかわつて同年九月三日第二回公判を開廷し、その際同年八月三十一日附起訴状記載の被告人に対する窃盗被告事件(原判示第二(二)の事実)を前記の被告事件に併合して審理する旨決定し、その後(昭和二十八年十一月十日第四回公判において被告人に対する窃盗被告事件を分離し、更に昭和二十九年一月十四日第七回公判において併合)結審に至るまで同裁判官によつて公判手続が行われたにも拘らず、原審公判調書によるも公判手続の更新をした形跡もなく、又更新と呼称するかしないかは別として、右原判示第二(一)の事実について、起訴状の朗読、被告事件に対する陳述及び第一回公判調書及び同期日で証拠調のなされた石井正雄の盗難被害届、猪股栄子の司法警察員に対する第一、二回供述調書、同人の任意提出書、司法警察員の領置調書、石井正雄の確認書、桜田まり子の確認書、猪股正勝の司法警察員に対する第二回供述調書、佐藤正八の同上第一回供述調書、片寄光の同上第一回供述調書、猪股正勝、佐藤正八及び片寄光の各検察官に対する第一回供述調書、片寄光の前科調書の十四個の証拠(即ち原審第一回公判調書別表記載の各証拠)は斎藤裁判官としては、その取調をした形跡がない。右公訴事実については、起訴状謄本の送達も適法になされ、公訴事実は簡単で、かつ被告人は之を自白している事件であり、第一回公判期日では起訴状の朗読も被告事件に対する陳述もなされているのであるから裁判官更迭後更に起訴状朗読、被告事件に対する陳述等を行わなかつたとしても、被告人にとつて、その権利を防禦するため実質上格別の不利益があつたとは認められないので更迭後これらの手続をしなかつたことの違法は判決に影響を及ぼすこと明白であるとはいわれない。又第一回公判調書及び同公判期日で取調べられた証拠を裁判官更迭後取調べなかつたからとて、それ自体判決に影響を及ぼすこと明かな違法といい得ないことはもちろんである。以上の次第であるから原審が公判手続を更新しなかつたこと自体は判決を破棄すべき理由にはならない。しかしながら原審公判審理の経過は敍上の通りであるから、原判決挙示の「被告人片寄光、猪股正勝の各当公廷における供述」中には第一回公判期日における同被告人等の供述(同人等は第一回公判期日では何れも公訴事実を自白している)は含まれず第二回公判以後のものでなければならないのであるが、記録によると、右両名とも第二回公判以後は右公訴事実については何等の供述をした形跡がなく、又石井正雄の盗難被害届(これの証拠調のなされない点の違法についてはしばらくおいて)には、原判示第二(一)に照応する盗難被害事実の記載はあるが、それが被告人等の行為である旨の記載は全く存せず、なお、これらを除けば原判決挙示の証拠中には原判示第二(一) 事実を肯認すべき資料は全く存在しない。従つて原判決はこの点について証拠理由不備の違法がある。又右石井正雄の盗難被害届は裁判官更迭後証拠調のなされたことのないものであるから、之を更迭後の裁判官がした原判決の証拠としたことは証拠調をしない証拠を判決の資料とした違法があることに帰し、しかもこの証拠を除外すれば原判決挙示の証拠を以て原判示第二(一)の事実を認定し得ないことは愈々甚しくなるのであるから、この違法が判決に影響を及ぼすことは明白である。以上の理由で原判決中原判示第二の部分は破棄を免れず、論旨は理由がある。

同上第二点について。

原判決挙示の証拠により原判示第一の(一)の事実殊に被告人が所携のナイフを長谷川四郎に示し判示の如き言辞を弄し同人を脅迫したことは原審第六回公判(昭和二十八年十二月十五日)において被告人の自認するところであるから之を認めるに十分であり、かつ記録を精査するも此の点につき原判決に事実誤認の違法があるとは認められない。所論は原審の援用しない証拠に基き原判決を論難するもので採用し難い。論旨は理由がない。

同上第三点について。

所論に鑑み記録を精査し、被告人の経歴、性格、境遇、本件原判示第一の各犯行の動機、態様、前科関係その他諸般の情状を綜合して考察すると原判決の原判示第一の罪に対する量刑は必ずしも重いとはいい得ず。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条に則り原判決中原判示第一の罪に対する控訴は理由なきものと認め之を棄却すべく、原判示第二の罪に対する量刑不当を主張する控訴趣意については後段破棄自判の際自ら判断を受けるところであるから、之に対するここでの判断を省略し、同法第三百九十七条に則り原判決中原判示第二の罪に関する部分を破棄すべきものである。而して本件の場合原判示第二(一)の事実を含む原判示第二の事実について当裁判所自ら判決することを得るや否やを考察するに、問題となるのは第一には、原判示第二(一)の事実についての起訴状朗読、被告事件に対する陳述を更に第一審で履践しなければならないか、第二には石井正雄の盗難被害届以下十四個の証拠即ち原審第 回公判期日で取調べられた同期日の調書別表記載の証拠を自判すべきや否やの判定及び自判の際の事実認定の資料に供することを得るやの二点に存するのであるが、右第一の点は原審第一回公判期日において既にその手続が履践され、しかも被告人は事実を自白し何等争つていないのであつて、この手続を改めて履践すると否とは被告人の利益に全く消長を来たさないと認められ、右第二点は、なるほど刑事訴訟法第四百条但し書の「原裁判所において取調べた証拠」とは判決裁判所(本件でいえば更迭後の裁判官)が取調べた証拠をいうものと解すべく、前記十四個の証拠は之に該当せず従つて、これらの証拠を直ちに自判すべきや否やの判定及び自判判決の事実認定にその資料とすることを得ないことは明かであるが、本件の如く、被告人が事実を自白し、それらの証拠を証拠とすることに同意し、しかも原審において更迭前の裁判官によつてその証拠調のなされている場合には之を改めて第一審において証拠調をするか否かは被告人の利益に全く消長を来たさないことが明かであるというべく、当審において之が証拠調をし、即ち之を当審において取調べた証拠とした上、その他の証拠と併せて自判を相当とするか否かを判定し、之を相当とする場合自判における事実認定の資料に供することは違法ではないと解する。

よつて当裁判所は原審第一回公判調書及び前記石井正雄の盗難被害届以下十四個の証拠を取調べた上自判を相当と認め原判示第二の事実につき次の通り判決する。

当裁判所の認める被告人の犯罪事実は原判示第二(一)(二)記載の通りであるから、ここに之を引用する。

(証拠)

一、原審第一回公判調書中被告人及び原審相被告人猪股正勝、同佐藤正八の各供述記載

一、石井正雄の盗難被害届書

一、原審第二回公判調書中被告人の供述記載

一、小野輝久の検察官に対する第一回供述調書

一、萩原一郎の盗難届及び同追加届

(法令の適用)(省略)

(裁判長裁判官 鈴木禎次郎 裁判官 蓮見重治 裁判官 細野幸雄)

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